宣戦布告!

「不二先輩。」
呼ばれた声に振り返るとそこにはいつになく思いつめたような面持ちの一年生、越前リョーマの姿があった。
 「何?」
いつもとは少しばかり雰囲気が違う感じに小首を傾げた不二に、リョーマが口を開く。
 「オレ、先輩の事が好きなんですけど。」
・・・今までざわめいていた部室が水を打ったように静まり返り、一気に2人に部室全員の視線が集中する。
 「ああ、うん、僕も好きだよ。」
固唾を飲むような雰囲気の中、しかし実にあっけなくそう言ってのけた不二は、その手をリョーマに伸ばした。
その手は彼の頬を掠め、彼の頭の上へと乗せられる。
 「可愛い後輩だもんね。」
あやすがごとくにその頭を軽く撫ぜると不二はにっこりと笑う。
 「じゃ、お先。」
そのまま片手をひらひらとさせながら、リョーマの脇を優雅にすり抜け、不二が退室すると、一転、部室は笑いの渦に包まれた。
 「おチビやるぅ。不二に告白?」
息も絶え絶えに笑いながら先輩である菊丸がリョーマのわき腹を肘で小突く。
 「しかもこんなギャラリーがいるのにさ。」
 「ギャラリーがいるからっすよ。」
頬をぷっと膨らませ、リョーマが菊丸を睨む。
 「サシじゃ本気にされないっしょ?」
 「サシじゃなくても本気にされてないって。」
これまた先輩の桃城が放った一言に再び部室に笑い声が上がる。
 「相手はあの不二先輩だぜ?あの。」
その一言にこれ以上はないほど嫌な顔をするリョーマ。
 「・・・そんなに強調しなくてもいいっしょ?」
 「だって・・・ねぇ?」
 「なぁ?」
 「ふむ。」
順に顔を見合わせ、にやにやと笑っている先輩達をリョーマは睨み上げる。
このまま引き下がるのは性に合わない。
 「おーい、おチビ、ヤケになるなよ〜!」
菊丸の笑いを含んだ声とその他げらげらと続く笑い声を背に部室を飛び出したリョーマは、ぎりっと眼差しをあげ、辺りを見回す。
思ったほど不二は遠くへ行っていなかった。
 「不二先輩!」
他の先輩と比べて一回りは小柄なその背中に大声で呼びかける。
 「どうかした?」
振り返った不二はいつもと変わらない表情で、リョーマはいささかむっとする。
 「さっきの、聞いてなかったんっすか?」
 「さっきの・・・?」
 「オレ,本気なんですけど。」
 「・・・ああ、あれ。」
おや、というような表情を作り、不二はちょっと笑った。
 「嬉しいけど、でも、そういうこと、キミには少し早いんじゃない?」
 「それ、どういう意味っすか?」
 「さあ、どういう意味かな?」
 “くっそ、からかわれてる”
あくまで余裕の表情で自分の追及をさらりとかわす不二から何とか一本取りたくてリョーマはぐっと不二を睨みつける。
そんなリョーマをにこにこと見つめていた不二だったが・・・
 “え?”
いきなり腕を強く引かれ、前のめりになった不二の身体がリョーマの身体にぶつかった。
そのまま彼の胸にもたれかかるような姿勢になり、見下ろされるような格好でリョーマと視線が合い、不二は目をしばたく・・・
 「宣戦布告っす。」
・・・ほんの一瞬のうちに起こった出来事にあ然とした表情をしている不二にリョーマはにやり,と笑った。
 「やられっぱなしは性に合わないんで。」
 「・・・全く、とんでもない事するなぁ・・・」
今しがた口付けられた唇を手の甲で抑えながら、不二はリョーマを見る。
声は柔らかだが、その瞳は鋭く自分を見据えており,ようやく現れたこの人のもう一つの“顔”にリョーマは唇を吊り上げる。
 「やっぱ、キレイっすね。その顔。」
 「ちょっと生意気じゃない?」
 「それほど年なんて違わないじゃない?」
 「腕,離してくれる?」
 「ヤダ」
やれやれというような表情を作る不二を、瞳にありったけの力を込めて見つめる。
 「本気にしてくれるまで離さない。」
ふっと不二の表情に戸惑いが走る。それは彼の表情をひどく幼く見せてリョーマの目を見張らせる。
その表情に誘われたように、再びその顔を寄せかけたが、
 「甘いよ。」
不二の呟きに次いで腹部に突如走った痛みにリョーマは顔をしかめた。
 「いい腹筋してるね。」
見ると、リョーマの腕から身体を抜いた不二が自分のこぶしを握ったり離したりしている。
 「いい鍛え方してるね。やっぱり。」
 「・・・マジで殴ってません?」
殴られた腹部を押さえ、リョーマは不二を見上げた。
 「ああ、うん、ちょっと手が抜けなかったかも。」
不二はあっさりそう言ってのけると、ふっと笑う。
 「これが僕の宣戦布告って事で、どう?」
 「・・・ハードっすね。」
ゆっくりと身体を起こし、リョーマは不二を見る。
 「でも、負けませんから。」
 「そう?」
夏の日差しを思わせるような強い光を放つその瞳に不二は目を細める。
その眩しさにふと目まいにも似たものを覚えたのをこの後輩は気付いただろうか?
 「少しは意識してくれました?」
そしてまるでそんな自分の心を量ったかのような言葉を不二は背中で受け止める。
 「・・・さぁね。」
素っ気無い言葉の意味をこの生意気な後輩は読み取れたかどうか。
振り返って確かめたいのをぐっとこらえ不二はそのまま歩き出す・・・

「あーあ、やっぱズルイや。」
不二の立ち去った後、力が抜けたようにその場にべったりと座り込んでリョーマは天を仰いだ。
 “結局、肝心な事は何も言わないんだもんな”
キレイで、隙がなくって、皮肉屋で、掴みどころがなくって、でも・・・
“あんな顔するなんてね。”
先ほどの不二の戸惑った表情をふっと思い出しリョーマはちょっと笑う。
今度あの人に言ってみようか?
まるで無防備なあの顔はとてもあどけなくて、可愛かったと。
そしてそれはあの顔を見る前から自分が不二に対して抱いていた気持ちだったと。
それを聞いた不二はどんな顔をするだろう。
いつものように笑って受け流すのか、それともまた違った顔を見せてくれるのだろうか?
“油断しない方がいいっすよ。オレも宣戦布告は受けて立ちますからね。”
その時の不二の表情こそが見ものだとリョーマは一人笑った。

 




私が初めて形にしたリョ不二・・・もう何年前になるのやら;;以前カプリブルー様にアップさせてもらった事があったとは思うのですが
私の原点だったりするので、掲載したくて・・・最初はウェブ拍のお礼用にしたかったんですが、ちょっと上手い方法が見つからなくて(苦笑)ともあれご精読ありがとうございましたvvv